バーバー
「人生はクソッ素晴らしい」
1949年夏、北カリフォルニア、サンタ・クローザ。エド・クレインは義兄の経営する理髪店で働く床屋。ある日、理髪店に見知らぬセールスマンが現れる。彼は"ドライクリーニング"というまったく新しいベンチャー・ビジネスを起業するという。資本金は1万ドル。この話に「これで俺の人生は変わるのか?」と、資本金を得るために、さっそくエドは妻の不倫相手に脅迫状を送る。しかし、このちょっとした恐喝が様々な悪夢を巻き起こし、事態は思いも寄らぬ方向へ。壊れ始めたエドの運命は、どんな結末を迎えるのだろうか・・・?
オープニングの配給会社のロゴまでモノクロという細かいところまで行き届いた手法にニヤリとさせられるコーエン兄弟の新作は、まさしくコーエン兄弟"らしさ"が全開の、全編モノクロームの小粋な作品だ。
ここでも過去の作品同様、ほんの些細なボタンの掛け違い(思いつき。誰だって、変化のないありきたりな日常に不満を抱いていたら、自分の人生"一発逆転"を狙いたくなるでしょ?)から転がるように変貌を遂げていく人生が抑えたタッチで描かれる。その"人生"を描く過程に"人生"と"人間"の哀しさ、可笑しさがしっかり刷り込まれているという、コーエン兄弟の作品を好きな人には間違いなく満足のいく作品に仕上がっていると言っていいだろう(ただし、最高傑作だとは思いません)。それにしても、コンセプトを同じくしても、毎回よくもまあこんなに違う味付けで面白い作品を発表してくれるわよね。今回は恐喝→殺人→○○○の逮捕→裁判→ドリスの○○→バーディーへの想い→思いがけない○○→最後に○○(ここはこうでなくっちゃ!)って感じで(○○はネタバレになるので伏字に)展開するんだけど、そこに描かれる人間模様が何とも可笑しい。これってラッセ・ハルストレム監督作品同様、いい意味での"定番"作品だす。今回は、モノクロームの画面が何ともいえない味わい深さを醸し出していて、作品に色を添えている。といっても、モノクロームだけど(笑)。
それから、作品中で使われるベートーベンをはじめとする音楽がまた素敵。オカゲでベートーベンのピアノソナタを無性に聴きたくなって、帰ってからさっそくCD引っ張り出して"悲愴"と"月光"に浸ってました、あたしは(笑)。
もっとも、作品のテンポがゆったりしているから(その中に色々な要素がギッシリ詰め込まれているのは間違いないところだけど)、このテンポがダメな人にはキツく感じるかも知れないね。
今回の主役エドを演じるのは、コーエン兄弟作品初登場となるビリー・ボブ・ソーントン。彼がまたいい。この作品の原題は「The Man Who Wasn't There」 ということで、ビリーの役柄って無口で存在感のない男という設定だと思うんだけど、確かに彼はセリフもあまりなく、物語は彼のモノローグで進行していく。でも、セリフはあまりなくても表情(つっても、かなり無表情だからその"目"なのかな?)で感情が伝わってきて、その存在感のない存在がしっかり印象付けられるというところでやっぱりうまい役者だわねと思はず思ったりして。そういや、彼も"カメレオン俳優"って言われてたっけ。
他にも、脇を固めるドリスを演じるフランシス・マクドーマンドは相変わらず安定した素晴らしい演技だし、「ゴーストワールド」 のスカーレット・ヨハンスンもキュートだし(でも、"あんなこと"をするんだもんな〜(笑))、それ以外にもそれぞれの俳優がそれぞれの役回りをしっかり演じているということで、今回もしっかり堪能できましたです。
ちなみに、存在感のない"The Man Who
Wasn't There"に対して「What kind of
man are you?」って問いかけるのって、かなり強烈なんですけど(笑)。