春の日は過ぎゆく

 「僕には君の心の声が聴こえなかった。」
 番組制作の仕事の関係で出会って間もなく恋に落ちた録音技師の青年サンウと年上のラジオ局DJ兼プロデューサーのウンス。「いつも一緒にいたい・・・。」そんな至福の日々も束の間、春が来て夏を迎える頃、揺れ始めたウンスの態度にサンウはとまどい、途方に暮れ、傷ついていく・・・。竹林が風に揺れる音、夏の終わりの波の音。サンウはそんな"大切な今"を記録し、過ぎゆく時をいとおしむ。そして再び春がめぐって再会したとき・・・。
 「八月のクリスマス」 のホ・ジノ監督の、しみじみと切なく、そして何ともホロ苦い、だけど恋をするのってやっぱり素敵なこと、そして恋をするのってこういうことなんだよな〜と思わずにはいられないラブ・ストーリーだ。仕事で知り合ったふたりが程なく恋に落ちる過程が何とも自然で違和感がない。だけど、若いサンウと離婚経験のあるウンス、このまま上手くいくと思えた関係も、ウンスの一方的とも思える変心で崩れていく。別れを告げたかと思えば、連絡を彼女の方から取ってみたり、傍から見ると、サンウを振り回しているだけとも思えるウンスの行為。作品中には彼女の変心、行為の理由というのは明示されない。だからその理由をあれこれ想像して、それを受け入れられるか、感情移入できるかで、この作品に対する感想が異なってくるかも知れない。その辺で賛否というか、好き嫌いが分かれる作品だと思うけど、あたしは好きだな、こういう作品。あとね〜、個人の恋愛感というのも影響するかも。
 確かにウンスの行為というのはあたしたち男からみると、「オイオイ、勘弁してくれよ。」って感じだけど、サンウを振り回しているように見えるウンスもそれを好き好んでやっているようには見えないんだよね。なんていうんだろ、ラブラブ(死語)な関係になったと思えても、過去の離婚経験やなんやで恋愛に対する不安感みたいなものが大きくなっちゃって臆病になり、それがあのような行為に走らせているみたいな。憂いのある彼女の表情から、なおさらそんな気がしてしまう。指を切ったときに指を心臓よりも高い位置に持ってきてブラブラさせるということを分かれた後も自然にやってしまうんだもん、絶対サンウのことを嫌いになったとは思えないよ。そんな彼女を演じるイ・ヨンエ("奥菜恵+広末涼子÷2"って雰囲気だ)、「JSA」 のときも思ったけど、やっぱ綺麗やね(笑)。特段オシャレな格好とかしてるわけでもないのに、それが逆に"普通"っぽい魅力を醸し出してくれてるのかも。あたしも彼女みたいな人だったら、振り回されてもオッケーかも(爆)。
 一方、サンウの立場からいくと、さっきも書いたように「オイオイ、勘弁してくれよ。」って感じなんだろうけど、でもいくら冷たくされても好きなんだもん、その気持ちには抗えないよね。嫉妬と不安のあまり、駐車場でウンスの車に思わず傷を付けてしまうその行為も、何だか分かるんだよね〜。その純粋で繊細な青年をユ・ジテが「リメンバー・ミー」 のときと同様好演している。そんな彼が祖母の死後、春にウンスと再会し、結局選ぶ道というのがまた切ない。あのエンディング近くの道の上で植木鉢を○○するシーン、ここまでくるのにいろいろと葛藤があったんだと思うと、なんだか胸がキュンとしちゃって・・・。
 それからこの作品、所々に出てくる"音"を録るシーンというのが非常に印象的だ。竹林、波、川の流れ、それとオマケでウンスのハミングなどなど。この音を録るときの映像の美しさと相俟って、このシーンが作品のもうひとつの見所になっているといっていいだろう。
 そして、亡くなる前にサンウの祖母が言う「バスと女は去ったら追っちゃいかん。」というセリフがまた含蓄に富んでるよな〜と思わずにはいられない。

はの目次へ   INDEX